栄養を消化・吸収する腸

食べ物の消化・吸収を担当する内臓が「腸」です。腸は小腸と大腸という大きく2つにわけられており、小腸はすべての栄養素の消化・吸収、大腸は水分を吸収して便をつくることが主な役割です。

けれど最近では腸はネットワークを通じてあらゆる臓器と繋がっていることがわかってきています。特に脳とは迷走神経を通じて双方で連絡を取り合う「脳腸相関」の関係にあります。そんなことから今では、「心と体のあらゆる問題は腸に通ず」と言われており、まさしく命の源と言える最も重要な臓器なのです。

腸はテニスコートほど広い!!知っておきたい腸の構造

腸の基本的な構造は、大きくいうと小腸大腸の2つに分けられます。

確かに腸の基本的な構造は、大きくいうと「小腸」と「大腸」の2つに分けられますが医学的にいうと、腸は約10の部位に細かく分類されます。

小腸はさらに、十二指腸、空腸、回腸、大腸は、盲腸・結腸(上行・横行・下行・S状)・直腸に分けられます。

胃の出口(幽門)から十二指腸が始まり、小腸全体の5分の2が空腸、残りの5分の3が回腸と呼ばれています。

大腸は、腹部の右下になる小腸の出口(回腸口/パウヒン弁)から始まり、盲腸~結腸~直腸の順に肛門までつながっています。

日本人の平均的な腸の長さは小腸が約6~8m大腸が約1.5m内部の総面積は絨毛の効果もあって約32㎡もあります。テニスコートの1面分に相当する広さです。

消化のノルマは1日約9ℓ 腸をめぐる消化の旅を見てみよう!

食べものを消化・吸収することは、腸の代表的な機能のひとつになることはみなさんよくご存じですよね~。でも口から入れた食べ物がどのうな流れを経て、便として排泄されるのかは意外と知られていません。

上の図のように①の口腔内で咀嚼(そしゃく)された食べ物は、食道を通って②の胃に運ばれ、強い酸性の胃液によってドロドロに溶かされます。

このとき、十二指腸にある大小の「十二指腸乳頭」という弁が開き、⑤の胆のうから「胆汁」、④のすい臓から「すい液」という2種類の消化液が流れ込み、胃から十二指腸に送られたドロドロの食べものや胃酸と混ざり合います。

胆汁はアルカリ性なので胃酸を中和することができ、主に脂肪の分解を助けます。腸の潤滑油的な役割を果たすために「天然の便秘薬」とも呼ばれるんですよ。すい液には消化酵素が含まれており、ブドウ糖やアミノ酸といった栄養素に分解されます。

消化物とこれらの消化液は、1日に約9ℓほどになり、小腸では7ℓほど吸収されます。

残りの2ℓは大腸で処理され、腸内細菌が食物繊維などを発酵させながら、水分を吸収して体外に排出すべき便を生成します。

このとき、大腸での滞在期間が長くなると水分の吸収が進んで便が硬くなり、短いと水分量が多くなって軟便になります。

まずは小腸から知ろう!! 

小腸からその構造と働きについて、詳しく見ていきましょう!

小腸は体の中で一番長い臓器であり約6メートルほどあります。

十二指腸も小腸の一部ですが、一般的に小腸と空腸・回腸のことをいいます。

空腸と回腸に明確な境界線はありません。空腸はやや太く、回腸のほうが細くなっています。。

次に小腸の内部を見ていきましょう

小腸は広大な表面積で栄養素を吸収、さらに免疫機能の拠点のひとつ!

小腸は、食べ物の消化・吸収を一手に引き受ける重要器官

空腸と回腸の内壁は、輪状ヒダという高さ8mmほどの隆起があります。表面の粘膜は絨毛(じゅうもう)という小さな突起に覆われています。

その絨毛を拡大すると、さらに細かい微絨毛(びじゅうもう)という突起でびっしりと覆われています。まるで柔らかいビロードの絨毯のようになっているんです。食事で得た栄養素は主に小腸で吸収されます。

この絨毛があることによって、表面積が大きくなります。そのため全長6m、表面積200~500㎡という広大な構造により、より多くの栄養素を効率的に消化・吸収できるのです。

絨毛はからだの組織に必要なほぼすべての物質を吸収します。水、ミネラル、糖、アミノ酸、ビタミンなどが絨毛を通って腸の中の血管に入って行きます。

腸は外敵と闘う最前線であるため全身の7割の免疫細胞が集中

小腸は栄養素を体内に取り込む入口ですが、腸内に入って来るものは、食べ物だけではありません。目に見えない最近やウィルスが数多く存在し、食事や接触などによって荒田の中に侵入してきます。

このような外敵に対し、全身への侵入や増殖を防ぐために体内で闘ってくれるのが免疫細胞です。

腸は口から直接食べ物を摂り入れるため、下界の異物と接している部分です。そのため、異物の侵入を防ぐため、リンパ小節などに全体の7割の免疫細胞が集まっているんです。

外から入って来るもののほとんどが、腸を介して全身を巡ります。腸は体の「玄関口」であり、外敵を玄関でせき止めることが、腸内の免疫細胞にとっての最大のミッションなのです。

腸内に病原菌などが侵入すると、腸壁の内部にいる免疫細胞が危険を察知し、メッセージ物質を放出します。そのメッセージを受け取った腸壁の細胞が、さらに抗菌作用のある物質を分泌して病原菌を撃退します。

腸にはさまざまな外敵がやってくる
腸には免疫細胞全体の7割が集中

小腸の粘膜免疫(パイエル板)のしくみ

外部からの抗原(細菌やウィルスなど)に直接さらされている腸管の内側では体内の免疫細胞の50%以上が集中しており、ユニークな免疫機能を持っています。その代表は回腸壁の上皮にある「バイエル板」というシステムです。パイエル板は、2~10㎝の長円状の形をし、肉眼でも確認できます。

M細胞という特殊な形の細胞がいて抗原を免疫細胞の集まっているパイエル板へ誘導し、免疫細胞の樹状細胞、リンパ球のT細胞とB細胞、形質細胞などによって処理します。

さらに、新人の免疫細胞に外敵について覚えさせるという新兵訓練所のような機能も備わっています。このように、腸管の免疫システムは、かなりの高機能を駆使して、体を外敵から守っているんですよ~

大腸について知ろう!! 

小腸とつながる大腸は、全長約1.5m(腸内に消化物や便がない状態では約70㎝)の消化管です。大腸は小腸に比べて短いものの、直径は小腸の2倍以上あり、じん帯の中でも大きな部類に入る臓器といえます。

大腸の主な役割は便を作って排泄することです。具体的には、小腸から盲腸を経由して決勝に消化物が送り込まれるとミネラル(向き栄養素)や水分が吸収され、その残りカスを腸管粘膜の粘膜層に棲息する腸内細菌の働きで分解し、発酵させます。

結腸は、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸で構成され、それらを通過するときに発酵が進んで便が生成され、最後に直腸に送られて肛門から排泄されます。

ちなみに大腸の入口の盲腸は本来、セルロースという食物繊維を分解する消化管で草食動物では発達していますが、人間の盲腸は退化しており、その役割をほとんど果たしていません。

また盲腸の端にあるのが虫垂で、ここが細菌感染して発病する病気を虫垂炎(一般に盲腸炎と呼ばれる病気)といいます。

固形の便をつくるのが大腸

小腸から大腸に送り込まれた消化物は、最初のうちは固形ではなく液状です。それが上行結腸から横行結腸に消化物が移動すると粥状になり、横行結腸から下行結腸に移動すると固定化します。

つまり、消化管から徐々に水分が吸収され、便の形が整うというわけです。

便が固定化するとはいえ、ガチガチに固くなるわけではありません。排泄されるばかりになった直腸の便でも75%が水分で、固形成分は約25%程度です。

排泄時の便の水分が80%を超えると下痢になります。

また、大腸での便の滞在時間が短くても水分量が多くなり軟便や下痢になることがあります。

便の排泄量には個人差がありますが、目安は1日当たり100~250g程度とされています。健康な人の排便ペースは1日2回から2日に1回です。

3日間排便がない場合は便秘とみなされ、お腹の張りや腹痛などの自覚症状があれば治療が必要になります。

100兆個の腸内細菌が存在する腸内フローラ

私たちの腸内の環境を左右するもの。それは約100兆個も存在するといわれる「腸内細菌」です。私たちの体は37兆個の細胞でできているので、腸内細菌の数がいかに多いかわかりますよね。腸内細菌の9割以上は大腸に棲んでおり、残りの約1割が小腸に棲んでいます。

腸内細菌は、宿主である人と共生関係にあり、食物から得る栄養素を餌に発酵することで増殖します。

また、さまざまな代謝物を生成することで、人体の機能に大きな影響を与えています。

腸壁の粘膜にびっしり生息しているため、まるでお花畑のように見えることから「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれ、その総重量は、なんと約1.5~2キログラムにもなります。

腸内細菌には3つのグループがある

   理想的なバランス: 善玉菌 2、悪玉菌 1,日和見菌7

腸内細菌は、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つのグループに分類されます。

「善玉菌」~健康に有益な働きをする

「悪玉菌」~健康にマイナスの働きをする

「日和見菌」~善玉菌と悪玉菌のどちらにもなりうる

これらの腸内細菌は、私達人間と共生関係にあり、消化物を発酵するときに増殖し、さまざまな物質を生み出して体の健康状態に影響を与えます。

これら3つのグループの理想的なバランスは、善玉菌2割に対して、悪玉菌が1割、日和見菌7割と言われています。この比率が逆転して悪玉菌が優勢になると、腸内環境が一気に悪化し、さまざまな弊害が起こってきます。

具体的には、酵素(体内の化学反応を助ける物質)やビタミンなどが作られます。

腸内細菌が生成する酵素の中で重要なのは消化酵素です。

例えば、人間に本来備わっている消化酵素だけでは難消化性の食物繊維を分解できませんが、腸内細菌の一つである善玉菌はこれを分解することができるのです。

このように、腸内細菌が生成する酵素の力を借りることで消化能力がアップするわけです。

次に腸内細菌はビタミンB群ビタミンKを生成します。

ビタミンB群には糖質・脂質・タンパク質の代謝(体内で行われる化学反応)を促したり、皮膚、髪、爪の健康を助けたりする作用があります。またビタミンKは血液の凝固防止や骨の代謝にかかわっています。

他にも腸内細菌は、抗加齢成分のポリアミン、抗酸化作用を発揮する水素などを作ります。

ということで、腸内細菌は宿主である人と共生関係にあり、食物から得る栄養素を餌に発酵することで増殖するわけなんです。また、さまざまな代謝物を生成することで、人体の機能に大きな影響を与えています。

主な腸内細菌の機能と特徴

腸内細菌の種類や役割については、別のページで詳しく紹介しております。下のバナーをクリックすれば、各内容の紹介ページに移動します。

第二の脳といわれる「腸管神経」ネットワーク

最近、世間の注目を集めているのが「腸管神経」です。腸には約1億個の神経細胞が存在し、人体においては脳に次ぐ多さです。しかも腸のコントロールは、すべて脳が支配しているのではなく、腸が自ら判断を下す機能を持つことから「第二の脳」とも呼ばれています。

腸管の組織は、多層構造になっていて、腸壁の粘膜下に「粘膜下(マイスナー)神経叢」があり、主にホルモン分泌などを支配しています。

さらに、その外側の層には「筋層間(アウエルバッハ)神経叢」があり、腸のぜん動運動をコントロールしています。これらの腸管神経は、迷走神経を通じて、脳と繋がっています。迷走神経は主に腸の動きを活発にする副交感神経の機能を持ち、逆に腸の動きを抑える交感神経は、脊髄の中枢神経と繋がっています。

なかでもとくに注目されているのは「脳腸相関」という双方向のネットワークです。脳と腸の情報交換は脳からの一方通行ではなく、腸からも脳にメッセージを発信するというものです。つまり、腸内の状態によって、その情報が脳へと伝えられ、そこから体のあらゆる場所に影響を及ぼすことになるのです。

腸は様々な臓器と繋がりコミュニケーションを取っている

神経系のネットワークを通じて、腸と脳は深い関わりを持っていますが、実は、腸とカラダのネットワークは、脳だけではないのです。多くの臓器と複雑にコミュニケーションをとり、連携しています。

たとえば、肝臓は。消化液である胆汁を作り、空腹時は十二指腸の便が閉じているので、それを胆のうで蓄えさせておきます。

また、小腸で吸収された栄養素は、いったん肝臓に送られ、そこから全身へと送られます。腸にとっては大切な貯蔵庫といえます。

また、腸とは一見関係が浅そうな心臓は、腸内に不調があれば、その信号が自律神経を通じて伝えられ、心拍数を上げ下げして、腸の働きと連動して血流をコントロールしています。

も自律神経と密接につながっており、腸に問題があれば呼吸が浅く速くなったり、呼吸を整えることで腸のぜん動運動をサポートしたり、密接な連携をとっています。

このほか、脾臓は免疫系、副腎はホルモン分泌系といったように、カラダの「スイッチングハブ」である腸は、各臓器と互いにコミュニケーションをとりながら、体内機能のバランス維持に日夜努めているのです。

幸せホルモン「セロトニン」の9割は腸でつくられる

腸の調子が悪くて悩まれている方のほとんどは、表情が暗く、元気がありません。実際に、うつ病の患者には便秘や下痢が多いというデータもあります。つまり、心の健康と腸内環境は密接なつながりがると考えられるのです。

腸と脳が双方向でやりとりをする「脳腸相関」については、別項目で詳しくご紹介しましたが、心と体を健全な状態に保つには、腸の健康を維持することは欠かせないことなんです。

人間の情緒に影響するホルモンで「セロトニン」という物質があります。幸福感との関連があることから「幸せホルモン」との呼ばれているホルモンで、よく耳にするのではないでしょうか?

実は、このセロトンは9割が腸管で作られているのです。

セロトニンには、腸管のぜん動運動を活発にしたり、自律神経のバランスを整えて、心を前向きにしたりする作用があるとされています。また、興奮物質であるノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑える効果があるため、イライラしなどを起こしにくくなります。心の平穏には、これらのホルモンの分泌が鍵となり、それに影響するのが腸内のバランスなのです。腸は幸福で安定した精神状態にも大きく影響しているといえます。