二足歩行をするために重要な働きをする筋肉とは?

前回は、人間が二足歩行をするために歯の噛み合わせがとても重要であり、歯の噛みわせと重力に逆らって立ったり歩いたりすることができる抗重力筋との関係についてご紹介しました。

今回は、人間が二足歩行をするために重要な筋肉や口の役割について、さらに詳しく、歯科医近藤信也先生の著書「歯医者のウソ」から抜粋してご紹介したいと思います。

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抗重力の要となる僧帽筋の働きとは?

 

みなさんは、僧帽筋という筋肉の名前を聞いたことがありますでしょうか?

下の図のように、まるでお坊さんが袈裟を着ているような形に見えることから僧帽筋という名前がついています。

全身にある抗重力筋の中でも、一番上にある大きな三角形をした筋肉で、首から肩、広背筋という背中の大きな筋肉の表層を覆っています。

この僧帽筋こそが、人間が二足歩行をするために、もっとも重要な働きをしている筋肉になるんです。

 

僧帽筋は、体温保持にも貢献しており、よく、風邪をひいたら首の後ろを温めなさいと言われませんか?

これは、風邪を引いたときには僧帽筋の働きが弱まっているからです。

なので、僧帽筋を鍛えておくと風邪にかかりにくい体質になるともいわれているのです。

 

さて、この僧帽筋ですが、重力に逆らって頭を引っ張り上げるという役割を持っているのですが、単に頭を引っ張り上げるだけなら、頭蓋骨の上部に付着していたほうが効率的なのに、なんと頭蓋骨の下(後頭骨の上項線)に付着しているんです。

 

テコにたとえるなら、下の図のように僧帽筋が頭蓋骨に付着している②の部分が作用点で、頭蓋骨が背骨に乗っている①の部分が支点になります。

力点は僧帽筋が覆っている部分の③になります。

 

この力関係は、支点から力点まで(①から③)の距離に比べ、支点から作用点まで(①から②)までの距離がかなり短くなっているため、頭を上に引っ張り上げるためには効率が悪く、後頭部にかなり大きな力が必要となります。

つまり、僧帽筋だけでは、頭の位置や、角度を微妙に動かすことはできないのです。

 

頭の位置を保持する筋肉

 

僧帽筋は、頭を上に引っ張り上げる筋肉の要ではありますが、僧帽筋だけでは頭の位置や、角度を微妙に動かすことができないとなると・・・他に、僧帽筋をサポートしている筋肉があるはずですよね。

それがアゴの筋肉と後頭部の筋肉になるんです。

実は、アゴの筋肉には、口を閉じる筋肉と開ける筋肉があるって知っていましたか?

私は、どちらも同じ筋肉だと思っていました~。

 

この口を閉じる筋肉と開ける筋肉は、頭を支える筋肉と常に一緒に動いているんです。

 

ガムを噛んだり、アゴを開閉させたりしたときに、後頭部を触って診てください。

後頭部の筋肉が一緒に動いているのがわかると思います。

これは、口を閉じるときに使う筋肉と、頭を支える後頭部の筋肉が一緒に動いているからです。

 

例えば・・・

ステーキを食べるときは、アゴの筋肉を動かす指令が脳から伝えられます。

前歯で肉を食いちぎり、よく噛まなければ味わうことも、喉を通すことももできません。

この時のアゴの運動は、上下だけでなく左右や斜めというように、あらゆる方向に動きます。

 

もし、アゴが体に固定されていてば、口を開けたり閉じたりするには頭を首振り人形のように動かさなければなりません。

 

では、ステーキを食べるとき、頭とアゴにはどのような力が生じるのでしょうか?

ステーキを噛み切ろうとすると、アゴが上へ引き上げられます。その際、頭を下へ向かせる力が同時に生じますが、頭を支える筋肉が後ろへ引っ張るので頭の位置が保たれます。

 

【動画1 ステーキを噛み切る時に動く筋肉】

【動画2 頭の位置を保つ筋肉:側頭筋】

つまり、口を閉じる筋肉の抗筋(動画1)と頭を支える筋肉の側頭筋(動画2)は同時に運動する、まさに双子の筋肉なのです。

 

さらに、奥歯で細かくすり潰すためにアゴを左右や斜めに動かすときも(動画3)、頭を支える筋肉群(動画2)が頭の位置を保とうとします。

 

【動画3 奥歯で細かくすりつぶす時に動く筋肉】

双子の筋肉は、常にひっぱりあって頭の位置を保とうとしているわけです。

 

口に隠されたもう一つの役割とは?

 

もう少し詳しく、口を開閉する筋肉の動きを見てみましょう。

咬筋と側頭筋が、頭と下アゴのどの部分にくっついているのか、下の図で確認してみてください。

眼窩(がんか)という骨のすぐ下に、アーチ状の頬骨弓(きょうこつきゅう)があります。

この内側からアゴの角にくっついているのが頬筋になります。

 

そして、側頭筋は、下アゴの上にある出っ張り部分にくっついています。

もう一度、下の動画を見てほしいのですが、抗筋や側頭筋が収縮することで、下アゴが引っ張り上げられ口が閉じます。

 

ところが、実は、これも大変効率の悪い仕組みなんです。

なぜ、このような効率悪い仕組みになっているのか?ということを考えた時、そこに「アゴの筋肉は単に食べ物を食いちぎる目的だけではない」という秘密が、隠されているわけなんです!!

 

どんな秘密かといいますと・・・・

咬筋も側頭筋も、頭を支える働きをしているのです。

言い換えれば、側頭筋と咬筋の両者の筋肉が引っ張りあっていなければ、頭の位置が保てないのです。

 

赤べこという郷土玩具を思い浮かべてください

体を揺さぶると頭もグラグラと動いてしまいます。

 

これとは逆に、頭を常に一定の位置に保つには、筋肉が繊細かつ微妙なタイミングで引っ張りあわなければなりません。

 

この原理と似ているものがあります。

消防団などが行う出初式のはしご乗りです。

 

ハシゴの先端で人が逆立ちをしたりしますが、ハシゴは倒れません。

それは、ハシゴの下の部分を、人が長い鎌のような物でひっかけて引っ張りあっているからなんです。

 

ハシゴに乗っている人を揺れる頭と仮定するなら、ハシゴを支えている人たちは、頭を支える筋肉群と考えることができます。

 

鎌のような物をハシゴに引っ掻けて引っ張りあっている人たちは同じ力加減で引っ張るのではなく、ハシゴの上で動く人の力を打ち消すように引っ張りあわなければならないのです。

 

 

実は・・・筋肉は振動しながら引っ張りあっている

 

ここで、

① 僧帽筋などの頭を支える筋肉

② 口を閉じる筋肉

③ 口を開ける筋肉

の関係を整理してみましょう。

 

①と②の筋肉は、私たちが起きている間は、常にひっぱりありをして頭の位置を保っています。

③の口を開ける筋肉は、②の口を閉じる筋肉とも引っ張り合いをしています。

 

つまり、

①と②=引っ張り合いをしている

②と③=引っ張り合いをしている

という関係になります

 

 

私たちは、誰もが上と下の歯の間に、必ず隙間をあけています。

そんなこと意識したこともないと思いますが、歩いているときも、立っているときも、仕事をしているときも、1~2ミリほどの隙間を設けているんです。

 

この隙間を保つには、隙間を閉じようとする力と、開けようとする力が必要になります。

 

箸で物をつまむとき、箸の先端を1mm程開けたままにしなさいといわれると、先端をくっつける力と引き離す力の両方が必要となり、箸は震えるはずです。

これと同じように、上下の歯の間に隙間を設けるには、上の図のように口を閉じる筋肉と口を開ける筋肉が引っ張り合いをしなければなりません。

同時に、アゴの位置も保たなければなりません。

 

口を閉じる筋肉と、口を開ける筋肉は、箸がぶるぶると震えるよりもさらに細かく震えながら引っ張り合っています。これこそが「振動」なんです!!

前述したハシゴの上で働く人の力を打ち消すように引っ張り合う力も、この「振動」としてとらえることができます。

 

 

では、もう少し詳しく、口を開ける筋肉と、口を閉じる筋肉が互いにどのように振動しているのかを見てみましょう!!

口を閉じる筋肉は、口を開ける筋肉よりも大きな筋肉になります。

また、頭の位置を保ったり支えたりする僧帽筋などの筋肉と、アゴの筋肉の大きさを比べると、頭を支える筋肉の方が大きくなっています。

このように引っ張り合う2つの筋肉は、必ずどちらか片方が大きく、もう一方は小さくなっています。

 

下アゴを引っ張り上げて口を閉じるにしても、頭を引っ張り上げるにしても、実は大変効率の悪い仕組みになっています。

そのため、大きい方の筋肉により多くの仕事をさせてバランスを取る仕組みになっています。

 

どうしてこのようなバランスの悪いしくみになっているのでしょうか?

 

 

もし19gと81gの重りのバランスを取る天秤があったとすれば、天秤の支点から重りまでの距離は、小さな塊までの距離の方が約4倍長くなります。

天秤をゆすってみると、19gの重りは大きく揺れますが、81gの重りはあまり揺れません。

19グラムの重りの振幅は大きく、81gの重りの振幅が小さいためです。

 

 

これを筋肉の振幅として考えると・・・

口を開ける筋肉の振幅よりも閉じる筋肉の振幅の方が小さくなります。

 

さらに口を閉じる、つまり頭を前に引っ張る筋肉の振幅よりも頭を後ろへ引っ張り上げる僧帽筋などの筋肉の振幅の方が小さくなります。

 

 

体を立たせる振動のスタートはアゴから!!

 

私達人間が日本足で立って生活するには体を振幅させなければならないということを分かっていただいたと思いますが、その振動のスタート地点は、アゴの付近から起こり、体を立たせている抗重力筋に伝えられます。

 

アゴは、頭蓋骨にぶら下がっているため、重力により下がろうとします。

繰り返しますが、上へ持ち上げようとするのは口を閉じる筋肉で、下げようと働くのは口を開ける筋肉です。

 

ハシゴ乗りの時にハシゴが倒れないように、下で人がハシゴを引っ張りあう、あるいは箸と箸の先端に1mm程度の隙間を開けようとするときの力加減は、感覚的に行われているはずです。

けれど、頭の位置を一定に保つのは、感覚的なものではありません。それは人間の本質であり常に頭を一定の位置に保つコンピューターにも劣らない記憶装置の働きになるんです。

 

振動しているからこと立っていられる

 

人間以外で垂直に立っているものに、「コマ」があります。

拘束で回転しているコマを棒で突くと、傾きはするものの元の状態に戻ろうとします。

ところが回転が止まるとすぐに倒れてしまいます。

 

 

コマは胴体部分の中央に軸があり、これを中心に高速でまわります。

このとき、遠心力が働いています。

その力は均等で、均等だからこそ軸が上を向き、立っていられるのです。

 

高速で回転しているコマの軸は、停止しているように見えま。

しかし、実際には軸が前後左右にぶれています。

ブレ幅が小さいために停止しているように見えているだけです。

このぶれ幅が非常に小さい状態も振動です。振動しているからこそコマは立っていられるのです。

 

ここまでのまとめ

 

人間が二足歩行をするためには、口を開ける筋肉と閉じる筋肉が、互いに引っ張り合いながら振動することが必要であるため、アゴの開閉は食べ物を咀嚼するためだけでなく、二足歩行するために頭を支える働きをしているということがわかっていただけたでしょうか?

次回は、二足歩行をするための筋肉の振動について、さらに詳しく説明していきたいと思います。

 

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