アブラは体に悪いという誤解はなぜ広まったのか?

油と脂の違いについては、前回の記事でお話したとおり、一般的に

・固まるアブラは「脂」

・固まらないアブラは「油」

と表記して区別しています。

 

まず、アブラには常温で固まるアブラと、固まらないアブラがあることを知っておいてください

では、なぜ固まるアブラと固まらないアブラがあるのでしょうか?

今回はアブラについての基礎的な知識を説明するとともに、長い間「アブラは体に良くない」「動物性のアブラは心臓病のリスクを上げる」と言った誤った情報が常識とされてきたのか・・・その背景についてご紹介していきます。

 

固まる脂と固まらない油は構造が違う

 

アブラには、なぜ固まる脂と固まらない油があるのでしょうか?

それは、そのアブラを構成する炭素数の結合状態、炭素数の二重結合があるかないかの違いによります。

 

炭素数の二重結合というのは、少し難しいのですが、高校の時に科学の授業で「炭素」というのを習った記憶はありませんか?

(恥ずかしながら、私は全く記憶がありませんでした・・・)

 

炭素というのは4本の手があり、それがいろんな物質と手を繋げるのですが、同じ炭素同士が手をつないでいる状態「不飽和結合」「不飽和脂肪酸」といいます。

さらに炭素と炭素は、1本の手でつながっているものと2本の手でつながっているものがあり、2本の手でつながっている部分を二重結合といいます。

この不飽和結合は不安定であり、二重結合の部分はとても傷みやすく、炎症を起こしてしまったり、アルデヒドが出来てしまったりします。

 

それに対して炭素が同じ炭素と手を繋いでいない状態のことを「飽和結合」「飽和脂肪債」といい、この状態が一番安定した状態になります。

 

二重結合がないアブラが飽和脂肪酸と言われ固まる「脂」であり、二重結合があるのが不飽和脂肪酸と言われ、固まらない「油」になります。

 

アブラの種類で例に出すと、

固まる脂(不飽和脂肪酸)は、ラードやバターなどの動物性油脂

固まらない油(飽和脂肪酸、二重結合があるアブラ)は、大豆油やキャノーラ(菜種)油といったいわゆる植物性油や魚油

になります。

 

ただし・・・オリーブ油やココナッツ油は、植物性ですが寒い日や冷たい場所では固まります。

 

固まる脂は血液をドロドロにする良くないアブラ、コレステロール値を上げるアブラと言われ、長い間悪者扱いされてきました。

これは後述しますが、最近の研究データでは間違いであることが証明され、固まる脂はむしろ体に良いことがわかってきています。

 

そのため昨今、このことが高齢者は積極的に肉を取った方が良いと言われる一因にもなっているのです。

 

固まる脂である飽和脂肪酸(肉、バター)は血管を丈夫にし、消化吸収が良いのもメリットですが、飽和脂肪酸であっても、遺伝子組み換えの餌などを食べて育った家畜の肉や乳から加工したバターは、反対に炎症を起こすためアブラ選びにには慎重になる必要があります。

つまり、アブラには「良いアブラ」と「悪いアブラ」がある・・・・といことなんです。

 

なぜ動物性の脂が悪者にされてきたのか?

 

さて、少し話を戻しますが、なぜ動物性の脂が長い間悪者にされてきたのか、そのお話をしたいと思います。

発端は、1960年代の研究なのですが、ミネソタ大学のアンセル・ベンジャミン・キーズ博士という学者が、「飽和脂肪酸(動物性油)が心臓病を引き起こす」という研究をまとめて次のような主張をしました。

飽和脂肪酸(動物性の脂)をたくさん摂っている地域は心臓病が多い

実はこの博士は、この研究結果を出すために、国を選んでいくつかの国からだけデータを作り出したんです。つまりこのときのデータは意図的に操作されていたのです。

発表されたのは、人工的につくられた「悪いアブラ」のデータだけで、健康的な「良いアブラ」のデータは隠されていました。

 

けれど、このデータが怪しいと言われ出したのは、2010年代であり、それまでは、人々は飽和脂肪酸(動物性の脂)は悪であると真剣に信じてしまっていたわけなんですね。

 

飽和脂肪酸というのは、現代ではいろんな研究が行われており、

糖質をコントロールした状態では、飽和脂肪酸は心疾患のリスクをあげることはない

ということがわかっています。

 

たとえば、コレステロールが高いと気にされている人がいれば、「最初のステップとしては、糖質の過剰摂取を避けて、身体の中の中性脂肪を下げておくことにより、コレステロールの値で心情病になるかどうかを心配する必要はない」ということが証明されています。

 

さらに、当初報告されていた、植物性油のリノール酸はコレステロール値を低下させる作用があるということも、短期的なものであり、長い間植物油を摂ると、むしろ心臓、脳血管疾患や欧米型がん(すい臓がん、乳癌、大腸癌、前立腺癌)アレルギー疾患、その他炎症性疾患などの原因になるという報告が次々と出てきたのです。

 

歴史的にみると、植物油(不飽和脂肪酸)の摂取が増えたのが1960年代あたりであり「動物性の脂は危険なので植物油を使いましょう」というキャンペーンが盛んにおこなわれました。

これ以降は、バターよりもマーガリンの方が良いなんて言われた時代なんかもあったそうです。

 

まだ、生まれていなかった人も多いと思いますが、この時代には、サラダ油やマーガリンのCMが盛んにテレビで流れていましたし、多くの人が進んでマーガリンを食べていました。

 

つまり・・・

動物性脂肪はコレステロール値を上げ、動脈硬化や心臓病の原因になるので、コレステロールを下げる動物性のリノール酸を積極的に摂ろうということだったのです。

 

 

まだサラダ油が健康に良いと思っている人が多い

 

けれど、未だに動物性アブラは健康に良くないので植物性油を摂取されている人を多く見かけます。

私がヘルスコーチをする際、「アブラはどんなアブラを使っておられますか?」と質問すると、多くのお客様が、「菜種油、大豆油、米油、キャノール油、ごま油、ベニバナ油」等と答えられます。

そして、これらのアブラを「植物性の油だから健康に良い」と信じ使われているようなのです。

 

一般的にサラダ油と呼ばれているものは俗称であり、専門的に説明すると、

精製された植物油の一種で

菜種、大豆、とうもろこし、ひまわり、ごま、綿実、紅花、米(米糠)、落花生

という指定された9種の原料のいずれかをつかった食用油

のことになります。

 

JAS規格(日本農林規格)では、0℃で5.5時間放置しても固まったり、濁ったりしない油であることを条件としています

 

ちなみに天ぷら油というのも俗称です。

サラダ油同様に植物の種から精製されたアブラになります。

原料は、リノール酸やオレイン酸の食用油(大豆油、キャノーラ油、ごま油、綿実油、コーン油など)で、なんと!! コシの強い油、つまり加熱安定性の良い食品添加物を入れたアブラもあります。

 

加熱してはいけないアブラについて知っておきましょう

 

もう少しアブラの種類の違いについてみていきましょう

アブラには、炒め物や揚げ物に使うものと多くの人が考えているかもしれませんが、その性質によっては過熱してはいけないアブラがあります。

 

揚げ物や炒め物に使えるアブラとしては、

ラード、ヘット、バターなどの動物性油脂、植物性油全般

があります。

 

けれど、植物性の油であっても、

えごま油、亜麻仁油、MCTオイル

は焦げると煙が出たり、痛めると焦げ付いてしまうので、加熱料理をする場合には適していません。

これらのアブラは、サラダなどにかけてつかったり、あえものにつかったりしてください。

 

アブラによって、炒める、揚げる、かける、あえる、つける というように使い分けていくことが、賢いアブラの活用方法であり、この記事を読んだ方は今日からアブラ上級者の使い方をしていってほしいと思います。

 

血糖値や中性脂肪を上げないすぐれたアブラ

 

アブラは、血糖値や中性脂肪をあげないことが最大のメリットです。

血糖値を上げるのは、糖質であり、脂質は血糖値をあげることはないんですよ。

 

むしろ血糖値を上げないために摂ることが常識とされています。

そして、炭水化物についても、脂質やタンパク質とともに摂ると血糖値はあがりにくくなります。

 

中性脂肪も、アブラを摂取すると上がると思っている人が非常に多く、中性脂肪を気にしてアブラを使わずとも調理できるテフロン加工の鍋やフライパンで、常にアブラ無しで調理されている人等もおられるのでびっくりします。

 

中性脂肪を上げる原因となるのは、アルコールと糖質であり、アメリカ糖尿病学会では、

中性脂肪が高い場合は、薬でコントロールしないで、まずアルコールを控え、それが原因でない場合は、糖質を減らし、その分アブラを摂取してください

と推奨しています。

 

「悪いアブラ」か「良いアブラ」かが問題

 

さて、ここまでの説明で、アブラは体に良いものではあるけれど、問題は使用するアブラが、悪いアブラか良いアブラかという点であり、良いアブラは心臓病を引き起こしや中性脂肪を増やすどころか、予防の働きさせしてくれるということがわかっていただけたと思います。

 

脂質を摂取することは健康にとってとても重要なことだけれど、大切なのは「良いアブラ」と「悪いアブラ」を選びながら活用していくことです。

 

悪者は「悪いアブラ」であり「良いアブラ」は心臓病のリスクを減らす

 

北インドに住む人達と、南インドに住む人達を比べた1つのデータがあります。

北インドの人達の生活は肉が中心です。ただし、その肉は主に良質な餌を食べて放し飼いの環境で育ったヘルシーな動物の肉です。

 

一方、南インドの人達は野菜中心です。アブラはナッツ類などから摂っていますが、肉中心のインドの人達と比べると、摂取する脂質の総量は19分の1と非常に少ないのです。

また、南インドの人達は運動量が豊富です、事務職中心の北インドに比べると、肉体労働が多い南インドの人達は活発に運動しています。

運動量だけで比べると、南インドは北インドの15倍も多いのです。

 

野菜中心の食生活で、アブラの摂取量は少なく、運動はたっぷり・・・・

一見、どう考えても南インドの人達のほうが健康的だと誰もが思うでしょう。

 

ところが!!

リサーチの結果は、南インドの人達の方が、北インドの人達に比べて、心臓病になるリスクが7倍も高かったのです。

低脂肪、低カロリーが必ずしも体に良いとは限らないという結果が示されたのです。

 

では、なぜ健康的だと思われる食事をしていた南インドの人達が、北インドの人達よりも不健康になってしまうのでしょうか?

ここに、「良いアブラ」「悪いアブラ」の問題が存在するのです。

 

北インドの人達は、ヘルシーな動物から供給される「良いアブラ」をたくさん摂っていたため、身体も健康で心臓病になる人が少なかったのです。

一方南インドの人達は、野菜中心の生活であると同時に、あまりアブラを摂っていません。ナッツ類などの限定されたものしか摂取していなかったのです。

 

ナッツ類のアブラは一見ヘルシーに思えますが・・・・市販されているものには、実は「悪いアブラ」でローストされた体に悪いものが多かったのです。

後に説明していきますが、熱で酸化したり、トランス脂肪酸という悪いアブラに変質してしまった物から加工されたナッツ類を摂取していたのです。

市販されているナッツ等の自然食品を買う場合も、最低限、無塩、無油、あるいは良質な塩、アブラを使用した「素焼き」か「生」のものを選ぶことをお勧めします。

 

ぞんなことから、南インドの人達は、もともと低脂質だったうえに、少ないながら摂取していた脂質に「悪いアブラ」が多く含まれていたために、体内で炎症が多発して、心臓病を引き起こしやすくなったという結論が導きだされたのです。

このデータでは、心臓病に関してのみしかリサーチされていませんが、がんや脳の病気など他の問題も南インドの人は北インドに比べて多く見られるとも言われています。

 

ただ、誤解しないでいただきたいのは、このデータが「野菜中心の食生活が心臓病のリスクを引き起こす」ということを証明したものではなく、「良いアブラ」の摂取は心臓病のリスクを減らすということを証明したものだということです。

 

けれど、こうしたデータをもってしても、まだまだ「アブラは体に良くない、心臓に良くない、血管が詰まる」と言ったイメージが払拭されないのも現実です。

そこで、もう1つ悪者は「悪いアブラ」であり「良いアブラ」は心臓病のリスクを減らすことを証明したデータをご紹介します。

 

血管を塞ぐプラークの正体は悪いアブラ

 

世界五大医学雑誌にも数えられる雑誌「ランセット」が発表した記事から引用させていただきます。

血管にたまって、血管をふさいでしまうアブラの固まり、別名「プラーク」と呼ばれる物質を分析してみたところ、「良いアブラ」に該当する脂肪は全く見つからなかった。見つかったのは「悪いアブラ」に該当する脂肪だけだった

多くの人がイメージしているのは。バターやラード、肉の脂身などの動物性のアブラが、そのまま血管を塞ぐ要因となるのではなく、加工されたり、さまざまな添加物を加えられたりした「悪いアブラ」がプラークを作り、血管に悪影響を及ぼすということがわかったのです。

「良いアブラ」と「悪いアブラ」どちらを選び、体に取り込むかによって、もたらされる変化や結果は全く別のものになるのです。

 

ということで、「良いアブラ」はどんなアブラで、「悪いアブラ」はどんなアブラかということを、私達は知り、アブラを選別していく必要があることがわかりました。

次回は、もう少し掘り下げて、脂質が体にとっていかに大切なものであるかをご紹介するとともに、「良いアブラ」とは?「悪いアブラ」とは?について、具体的に紹介していきたいと思います。